火を楽しく囲むイメージから生まれたかたち。

火とは本来、人がまわりに集まって、暖をとったり食事をともにして親睦を深められるものでした。しかし最近ではIHヒーターが普及して、喫煙者のいない家庭では火をつける道具がひとつもないこともあるそうです。学校行事のキャンプファイアーも、火ではなくライトを囲んで行うという話を聞きました。そんな風潮に対して考えたのが、喫煙のためだけでなく、火を使ってみんなで楽しさを共有できるライター。たとえば、花火やバースデーケーキのろうそくに火をつけるとき。そうしたハッピーな火のある場所で、コミュニケーションのきっかけになるようなものがあったら楽しい。スタイリングを考えるより先に、使うシーンをイメージすることで、ライターの新しい使い方やかたちを見つけられると考えたのです。そうして導き出したのがこのフォルム。使う場面がはっきりしているので、かたちにも迷いがありません。デザインは、つくるものではなくて探すものだから、適切なかたちがあれば、もうそれ以上はいらないんです。

人と火の新しい関係をつくる。

点火口をたくさんつけることも、最初に決めました。もちろんひとつの方がエネルギー効率はいいのですが、そこにとらわれない方がいいと考えたのです。このライターなら、花火にみんなで同時に点火して盛り上がることができます。ケーキに挿したろうそくにも一気に火がつけられるので、誕生会で子どもがヒーローになるかもしれない。使い方は、調節ダイヤルをまわして、持ち手のボタンを押すだけ。押している間のみ火がつくので、安全です。手に取れば使い方がわかるようにデザインして、「on」「off」などの表示はあえて入れませんでした。カラーは、新しいライターならではの色を探して、ちょっとくすんだオレンジを選んでいます。形状が輪になっているので、フックなどに引っかけて収納するのもいいでしょうね。ミニサイズは、ビッグサイズをそのまま縮小版にするのではなく、楕円形を少しつぶしてかわいらしさを生み出そうとしています。見た目が新しいだけではない、火と人との関係性を楽しく変えていくライターです。

Designer

柴田 文江

プロダクトデザイナー

1990年 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、東芝デザインセンターを経て、1994年 Design Studio S 設立。家電製品から日用雑貨、医療機器までプロダクトデザインの分野で幅広いジャンルのデザインを手掛ける。主な仕事に無印良品「体にフィットするソファ」/ オムロン「けんおんくん」/ J R東日本ウォータービジネス「次世代自販機」ドイツIFデザイン賞金賞、毎日デザイン賞など国内外で受賞歴多数。著書「あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ」(ADP)。

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